/ はじめに

富士山御師は「ふじさんおし」と読み、富士山信仰を支えた人達のことです。古吉田(今の富士吉田市内)に御師の集落をつくり、室町時代、上吉田に集落ごと移転してつくられたのが御師町です。
現在も、江戸時代に爆発的な人気を誇った富士講の方々のお世話や、年間を通じて祭りをはじめとした古くからの地元の生活文化を支えています。「御師料理」は、そうした富士山信仰を支える御師町に息づく食文化です。
料理を理解するには歴史、生活、食材、信仰を知ることから始まり、食の環境、しつらえ、器、食べ方なども含めて形づくられ、それらを継承することで食文化が形成されます。
折々の行事を大切にするこの地域の風習、伝統的な儀礼を継承する御師の人たちの生活、富士山北麓の自然がつくりだした食材や料理など、「御師料理」には他の地域にはない食生活文化があります。関東の自然に育まれたなつかしさも感じることができるでしょう。ぜひ、日本の食文化の奥深さを感じていただければ幸いです。

向後 千里女子栄養大学特任教授/御師料理 顧問

/ 御師料理について

御師料理は、富士信仰を支える御師町に息づく料理で、御師により歴史的に形成された伝統的な食事様式です。銘々膳を用い、漆や江戸時代に発展した染付の器等を合わせた食膳で、江戸から大正期に形成されました。基本の献立は汁とごはん、香の物、三~五菜の料理の組み合わせとなっています。富士山という高地特有の季節感に基づき、折々の行事を大切にした食事内容が特徴です。ここでは御師料理が持つ4つの主な特徴を紹介します。

01.  信仰に基づいた料理

日本には神祇(じんぎ)思想による山岳崇拝の信仰があり、仏教伝来後、山岳仏教である修験道の影響もあり、江戸時代は肉食が禁忌きんきとされ、精進料理をベースとして、魚食と野菜食を組み合わせた食事が形成されました。主な食材としてひじき、干瓢、昆布、ごぼうやその他の野菜があげられ、料理としては、ひじきとじゃが芋の煮物、夕顔の煮物や汁物がその代表として継承されています。

02.  神人共食の振る舞い料理

神に感謝し、神人共食(*)を行うことが基底にあるため、神饌を献供し、直会で神様とともにお神酒をいただきます。下山の際の祝いの膳や太々神楽奉納の際の式正料理(*)等、本格的なおもてなしを行い、食膳には古くは鯉をはじめとした川魚 、鮑 、鰹等の海の魚介類を多用した料理が並びます。

* 神人共食(しんじんきょうしょく)
神に供えたものを皆で食べ合うこと。直会。同じ食物を食べ分かち合うことにより、神と人間、また神を祀った人間同士の精神的・肉体的連帯を強めようとするもの。

*式正料理(しきしょうりょうり)
江戸時代の初期まで行われていた正式な儀式料理のこと。

03.  御師のおもてなし

日本人が自然に寄り添い、自然ともっと近い関係で暮らしていたときには、普通に感じられていた神様とともにいただく直会や節会といった食を通じたコミュニケーションの大切さや食に対する感謝の心を大切にします。信仰と奉仕の心が基本にあり、御師の家族や手伝いをする人たちのおもてなしとして継承され、主客が相互にもてなす行為を特徴とします。
例えば、御師のおもてなしに対し、講社からは米や酒、食材のお土産や食具等の寄贈、神楽の奉納等があります。御師と富士講の人たちとの相互交流により、もてなし、もてなされる関係が食事ゴトにより歴史的に継承され、相手の立場を心得たもてなしが特徴となります。

04.  富士北麓の山の恵み

夏山シーズンは登拝のためのおもてなしの食事、秋から冬は心身の温まる吉田のうどんをはじめとしたさまざまな粉食 、雑穀の食文化に特徴があります。
古くから麦、大麦、黍や稗、粟、もろこし等の栽培が盛んで、様々に工夫された料理があります。また、富士北麓の山菜やきのこなども、御師の食文化の特徴の一つとして考えられます。

/ 御師とは・御師の活動など

御師は古くから富士山信仰による登山者や道者の宿泊、食事の提供を行い、江戸時代は、教義の指導や祈祷、各種取次など、富士山信仰全般に神職として大きな役割を果たしていました。特に爆発的な人気を誇った富士講の方々を檀那に多く持ち、主に関東一円を中心に広く活動され、現在に至ります。
御師が住む御師町は富士道(139号)の上から、上宿・中宿・下宿とコミュニティが分かれており、元亀3(1572)年に作られた町割りのまま、道に沿って細長い敷地割に、伝統的な木造建築を保ち、様々に工夫され、住まわれています。
多くの御師住宅は普段は一般住居のため非公開ですが、一般公開されている旧外川家住宅はじめ、民宿やカフェを営む御師の家もあります。また、「浅間坊 表門」(2015年富士吉田市の有形文化財)も残されており、御師町の雰囲気を感じることができます。

/ 関連リンク

旧外川家住宅

The Togawa Oshi House, a Pilgrim’s Inn

北口本宮冨士浅間神社

Kitaguchi Hongu Fuji Sengen Jinja

/ お問合わせ

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